「アリとセブン」の北欧スタイル
北欧スタイルを代表する椅子「アリンコチェア」と「セブンチェア」は、デンマークの建築家アルネ・ヤコブセンのデザインでフリッツハンセン社から販売されました。
「アリンコチェア(アントチェア)」は、1952年自身が設計したノボノルディスク社の社員食堂のためにデザインされたチェアです。蟻を思わせるアイキャッチャーで可愛らしいフォルムは、整形合板の加工技術の進歩によるものです。座面と背面を一体にしたシェル型に整形することは簡単ではなく、ひび割れや強度の問題も含めて苦心の末に完成したと言われています。座面は薄い9枚の積層合板で構成されています。一番外側は美しい木目の突板、内側の7枚はバーチ材で縦目と横目を組み合わせることで、強度を高めています。こうした革新的な製造方法と印象的なデザインによって、「アリンコチェア」は商業的にも大きな成功を収めました。
「セブンチェア」は、「アリンコチェア」の開発から3年後の1955年に「アリンコチェア」の不足している部分を補う後継モデルとして誕生しました。「アリンコチェア」より一回り大きな背と座を持ち、より座り心地が追求された「セブンチェア」はミッドセンチュリーデザインの名作の一つとして、今日に至るまで世界で最も売れているスタッキングチェアとして知られています。名前の由来となったのは「FH3107」という製造ナンバーの最後尾にある「7」から来たと言われています。
それにしてもなぜ「セブンチェア」は、これだけ愛される存在になり得たのでしょうか。そのシンプルで飽きの来ない究極的なスタイルは、ミニマルで軽快、シャープだけれど柔らかい、整形合板の流れるような曲線美を生み出しています。360度どこから見ても非の打ち所がない美しさは、いつの時代でも多くの人々を魅了してきました。成型合板の加工技術と座り心地、外観の最適なバランスの追求がなされ、それが極めて高いレベルで成立したため、今なおこの椅子を超える存在を作り出すことが難しいということかも知れません。
デンマークのインテリアショップ「ILLUMUS BOLIGHUS」をベースに、日本でスカンジナビアモダンをコンセプトとしたライフスタイル専門店「ILLUMUS」のカタログを15〜6年前に縁あってディレクションさせて頂きました。夥しい商品群の中から家具や雑貨を選ぶことからはじめて、「ナチュラル&ノーブル」をカタログコンセプトに編集プランを組み立てました。葉山のハウススタジオで多くの北欧家具や雑貨に囲まれながら撮影したことを昨日のことのように思い出されます。「アリンコチェア」「セブンチェア」はジェネリック商品や類似品が数多くありますが、やはりフリッツハンセン社の本物は違うと強く印象に残りました。誕生から60年以上、これからも世界中で愛され続けることでしょう。
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