まな板は青森ヒバにまさるモノなし
「火遠理命海佐知(ほおりのみことうみさち)を以て魚釣(なつ)らすに」と古事記にあるように、魚を「な」と云いました。他の「な」と違いを持たせる意味でこれに接続語の「ま」をつけ、真魚(まな)を料理するということで「まな板」となったとされます。一方で、「まな」には「真菜」という解釈もあります。現在では「菜」は野菜類を示す言葉として用いられていますが、かつてはおかずを全て「菜」と呼んでいました。
まな板を台所の必需品として常用する文化圏は東アジアで、箸使用文化圏と大体一致しています。これは孔子が「君子厨房に近寄らず」の格言に基づき、厨房や屠畜場でしか使わない刃物の食卓上での使用に反対したことから、料理はあらかじめ厨房でひと口大に箸に取りやすい大きさに切り揃えられて食卓に出されるようになり、切り揃える必要性から箸が普及している地域ではまな板の使用が一般化しているものと考えられます。
また、板前や花板という言葉からもわかるように、日本料理ではまな板において素材を切り揃える作業・技術者が重視され、その作業者に対する特別の名称を持たない他の料理との際立った違いとなっています。
写真は「青森ヒバ」のまな板です。「青森ヒバ」は、ヒノキ科アスナロ属の針葉樹で木曽ヒノキ、秋田スギと並んで日本三大美林の一つです。国内蓄積量の80パーセント以上が青森県内にあります。香木とも言われる香りが強い木で、その香りは緊張を和らげ、落ち着きを与えるアロマ・リラクゼーション効果があります。また、ヒノキやイチョウなどの他の樹木に比べて、水に強く、カビや雑菌に対して驚異的な抗菌力を持ち、シロアリを寄せ付けない唯一の木材です。これは青森ヒバ油に含まれるヒノキチオール等の成分によるもので、抗菌スペクトルが非常に広いこと、カビや腐朽菌に対して活性が高いこと、耐性菌の出現を許さないという特徴があります。
まさに水を頻繁に扱う台所という環境の中で使用する、まな板のために生まれた木と言えるでしょう。
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