派手で陽気な上方落語の小道具
上方落語には、江戸落語にはない小道具が用いられます。見台(けんだい)、膝隠し(ひざかくし)、小拍子(こびょうし)です。これは辻噺・大道芸としてうまれた上方落語に対し、江戸落語が座敷噺・屋内芸能として発展してきたという歴史の相違によるものとされています。上方では不特定多数の通りすがりのお客さんを相手に見台をガチャガチャ叩いて、お客さんの気を引いていたようです。これが今日でも引き続いて使用され、話のイメージを高めたり、小拍子の音による場面転換に用いるなど、重要な役割を担っています。
上方落語の見台、膝隠し、小拍子に関しては、「含笑長屋落語十年」(昭和51年、関山和夫著)の中に、桂米朝師匠に指導を受けたものがあります。材質は見台、膝隠しは正目が美しいヒノキ(檜)、小拍子は打ちつけた時に歯切れの良い音がする、カシ(樫)かサクラ(桜)のような堅い木を使うように、細かな寸法とともに表記されています。
上方落語の中興の祖である桂米朝師匠は絶滅危惧種レベルにあった上方落語界に飛び込み、その再興に貢献しました。米朝師匠は消えようとしていた古典噺を書籍や先輩噺家の口述からコツコツ拾い集めて、今のデータベースとも言える全集として残され、上方落語の後進を育成しました。舞台に現れるだけで客の顔をほころばせ、端正で品格のある芸風は多くのファンを魅了ました。「上方落語の不毛期に育ち、晩年になって米朝という巨人を得た。この幸福をどう表現して良いかわからない」とは毎晩寝床で米朝師匠のテープを聞いていたという司馬遼太郎の弁です。
写真は、天満天神繁昌亭の見台、膝隠し、小拍子です。舞台正面の扁額には米朝師匠の書で「楽」が掲げられています。僕自身は大学生の頃に初めて米朝師匠の落語を聞いて、その語り口の見事さで噺に引き込まれていった事を今でも鮮やかに思い出します。
さて今夜は、「はてなの茶碗」でも聞いて幸福な芸を楽しみますか。
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