漆器が「JAPAN」と称される理由
漆は、日本を含む東南アジアに生育するウルシ科の木です。木なのに「木篇」ではなく「三水篇」なのは、漆だけです。「漆」という漢字をよく見ると、小さく「木」と「水」も入っていて、「木から滴る水」という意味になるそうです。つまり漆の木は樹液こそが大切であるという観点から「三水篇」が当てられたようです。先人の知恵には感心させられます。
漆の樹液は乾燥して固まると大変強靭で、熱にも湿気にも強く酸性やアルカリ性にも耐性があり、腐敗や虫を防ぐ効果もあります。そのため優れた接着剤や塗料として様々な素地とともに使われてきました。日本では、縄文時代の遺跡からも多くの生活道具が見つかっているように、太古の昔から漆は暮らしの様々な場面で活用されてきました。
漆器が完成するまでには、木地作り、下地塗り、中塗り、仕上げ塗りといった工程があります。木地は「丸物」と呼ばれるお椀や「角物」と呼ばれる重箱やお盆などで使われる樹種が違います。お椀に使われる木としては、ミズメザクラ、トチ、ケヤキが代表的です。木地師と呼ばれる職人が轆轤(ろくろ)を使ってお椀をカタチ作ります。その後、塗師が漆を何度も塗り重ねて美しい漆器に仕上げます。
谷崎潤一郎が「陰翳礼讃」の中で、漆器の魅力は日本の家屋の薄暗がりの中でこそ発揮され、漆器の肌は幾重もの「闇」が堆積した色であると言っています。この日本独自の漆器は、ヨーロッパとの交易の中で工芸品、美術品として高く評価され「JAPAN」という称号を得ました。
縄文の昔から今に至るまで、日本各地の家庭の食卓で日常使いの漆器が使われています。日本の食文化の基本である「一汁三菜」も漆器がなければ成り立たなかったかも知れません。
夕餉に晩酌で良い心持ちになった後、朱色のお椀で味噌汁を頂いた時、その口当たりの優しさや手にしたときの肌触りなども含めて「嗚呼、日本に生まれて良かった」としみじみ思う今日この頃です。
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