誰もが立ちたい檜舞台
「檜舞台」という言葉ですが、考えてみれば不思議なものです。そもそも、なぜ「檜」の「舞台」なのか。そして、どうしてこのような意味になったのか。言葉の歴史をたどっていくと、どうやら江戸時代に行き着くようです。檜は当時から高級な木材として扱われていました。そのため、檜を舞台に使用できたのは歌舞伎や能など幕府公認の中でも、一流の劇場に限られていたといいます。
一流劇場の檜舞台。それは役者にとって、これ以上ないほど素晴らしい腕の見せ場だったのでしょう。それが転じて「檜舞台」は「自分の腕前を試すのにふさわしい場所」という意味になり、今でも「全国大会という檜舞台に立つ」といったように、晴れ舞台を指すというわけです。
ヒノキは乾燥性が良く、狂いの少ない木材です。材質は柔らかく軽いですが、強度と耐久性が高い優良材です。檜舞台は、一寸五分(約5㎝)のヒノキの厚板が張ってあります。能や歌舞伎の中で、演者が舞台で足を踏み鳴らす音がよく響きます。ただし演者が走り回る舞台は消耗品で、定期的な張り替えが必要になります。
京都の南座も舞台の全面張り替えをし、2014年には「新檜舞台開き」が行われ、先代の松本幸四郎(松本白鸚)も登場しました。南座の張り替えに使われたのは、伊勢神宮の式年遷宮でも使われた由緒ある高級檜でした。節が少なく、艶があり、木目は鮮やかで香りも豊かと評判で、防虫効果まであるというから驚きです。
歌舞伎役者もここ十年で次々と名優を亡くしていますが、思い出すのは中村勘三郎さんと何度か法善寺の行きつけのバーでお会いしたことがありました。飾らない人柄で我々のような者とでも偉ぶることなく、親しく会話をして楽しい時間を過させてもらいました。役者として、これから益々円熟されていくと思っていただけに残念でなりませんでした。
二人の息子、勘九郎と七之助には頑張ってもらいたいものです。
久々に中村屋の檜舞台でも見にいくとしますか。
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