木を知る。
日本人が独自の風土の中で育んだ「木の文化」。
その美意識と技術の粋は、銘木という形で現代に受け継がれています。
銘木。それは、自然と人間の交わりによって誕生する生きた至宝なのです。
庭園と建築の総合美は、世界的に知られる桂離宮は、もとは八条三宅の別荘として江戸初期に35年あまりをかけて造営されました。竹やぶに囲まれた敷地内には、池を設け、松琴亭、賞花亭などの茶亭や書院を配しています。
優れて美しい木材、銘木
建築材の中でも、形状、材質、色、艶、木目が優れた木材のことを一般の木材と分けて「銘木」と呼んでいます。一般の木材が家の構造を支える構造材として使われるのに対し、銘木は家の内部の化粧材として使われるのが主です。しかし法隆寺や桂離宮のような歴史的建造物や重要文化財に指定されている伝統的な日本家屋においては、現在では銘木といわれる優れた木材を構造材、化粧材の区別なく、ふんだんに用いられていることがほとんどです。だからこそ今日まで、その偉容を伝えているといえるでしょう。
銘木店の登場
銘木という言葉が、現在のように一般に定着したのは明治の初めとされています。都市部を中心に、黒檀や紫壇などの唐木を扱う店が唐木屋として登場し、また変木屋とか丸太屋、欅・杉・松問屋などの専門問屋も、従来の材木店から分かれて営業するようになりました。昭和の初めになって、唐木、床の間材、特殊内装材、銘竹などを統合して扱う店が現れ、これを銘木店と称するようになりました。
銘木で自然への親しみを
日本が「木の文化」といわれるのには、材料が木材というだけでなく、白木を生かしていることにその理由を見る人がいます。白木とは塗料を塗らない白地のままの木材のことです、確かに日本の伝統建築は木肌の美しさを生かした組み合わせによって美しい空間を作り出しています。自然のままの姿を愛で、住宅に自然を取り入れていることが特徴といえるでしょう。そして美しい空間の魅力作りに、銘木が大きな役割を果たしていることは間違いありません。日本の住宅における銘木の見せ場は床の間であるといえますが、最近では洋風住宅においても銘木を取り入れたデザインが登場しています。「銘木」は優れた木材としてだけでなく、住まいの中で自然に親しめる素材でもあるのです。
樹木の生きた証
「銘木」となるいくつかの条件のひとつに、時間があります。例えば板類を取るためには樹齢が200年以上は欲しいところです。幅が広く、長く、狂いのない木材が取りやすいからです。老齢樹は年輪がつまっているので、きれいな木目が取れ独特の光沢も備わっています。また、ケヤキの玉杢(たまもく)のように、珍重される美しい模様も老齢樹に多く見られます、なぜなら杢は木部繊維の配列や年輪の乱れによるもので、その原因の多くは老齢による細胞形成の異常だからです。銘木は樹木として生きた証を私たちに語りかけてくれているようで、それも魅力のひとつです。
丹精した山々の至宝
「銘木」は人の手で育てられてもいます。例えば奈良県の吉野地方にある吉野杉は年輪のつまった、大怪材を育てるために1ヘクタールあたり1万から1万2000本の苗木を植えて枝打ちをし、間伐を10回以上繰り返し樹齢100年から120年で収穫します。普通、1ヘクタールあたりに植える苗木は3000本、間伐は3~4回で樹齢50年前後で収穫することと比べれば、驚くほど手間がかかっています。しかし、この緻密な手入れによって、根本から梢までまっすぐで節のない年輪の細かくつまった樹木となるのです。丹精された山々の美しい濃緑に「銘木」の源があります。
木取りには決まった法則があるわけでなく、実際に原木を見ながら木材の特質を考え、最良の状態の木材を挽き出します。
一瞬の勝負
「銘木」が生まれる条件として忘れてならないのが、木取りです、どんなに樹齢の長い樹木や、長年丹精された樹木が山から切り出されたとしても、木取りと呼ばれる製材ひとつで真の銘木となるかどうかが決まります。一本の原木をいかに製材すれば、無駄がなく、銘木と呼ばれるにふさわしい美しい柱材や板材が取れるかを見極めるのが、今ではすっかり少なくなった木挽き職人です。実際に挽いてみるまで、内部に腐れがあるか、大きな洞があるかはわかりません。自然が産み出す偶然、長年の人々の努力、そして原木を見極める目、こうしたいくつもの過程を経て、はじめて「銘木」は誕生します。
銘木製品のいろいろ
銘木のおもしろさは、原木丸太からすでに銘木であるものから、半製品、製品になってから銘木となるものがあることです。長い時間を生きてきた大径木から生まれた銘木が、銘木の代表選手である一方、自然の力によって、非常に珍しく変わった形になった樹木も変木として珍重されていたり、住宅の意匠にあわせて、塗装や彫刻を施したものなども銘木です。
- 1自然銘木
- 樹木を磨いてそのまま使用する。
- 2磨丸銘木
- 樹皮をはいだり、錆び付けを施したり、一部を削りとったりする。
- 3加工銘木
- 意匠仕様に合わせて、形態を整えるために加工したもの。塗装や彫刻、銘木合板など。
- 4製材品銘木
- 竿緑、廻緑、長押、鴨居、框、床柱
- 5銘竹
木の切り口、杢の味わい
木材の切り口には、さまざまな断面があります。木材は樹種による分け方だけでなく、その切り口によって使い分けられています。まず、幹を水平に切ると現れる表面は木口です。次に幹の中心を通るように縦に切ると年輪がまっすぐ平行に並びますが、これが柾目です。そして年輪の円を接線上に切った表面が板目です。切り口に現れた模様を杢と呼び、美しい模様にはさまざまな種類があります。
参考資料
『銘木資料集成~銘木その美と心』
全国銘木青年連合会
『銘木資料集成2』
全国銘木青年連合会
『銘木ABC』
全国銘木青年連合会
杢の種類
- 中杢
- 杉。特に吉野杉。天井板。
- 笹杢
- 吉野杉、春日杉、桧、椹、一位。天井板。
- 蟹杢
- 杉、桧、ケヤキ。天井板。
- 玉杢
- 赤松や黒松などの樹脂分の多い老齢樹。床の間周り。地板など。
- 銀杢
- ナラやカシ類などの放射組織を持つ樹種の柾目。内装材、家具。
- 虎斑
- ミズナラ。柾目に必ず現れるので特に高価になることはない。内装材、家具。
- 鳥眼杢
- カエデ類が珍重される。樹心近くから樹皮方向に向かってのびる不定芽や葉節などによって生まれる。内装材、家具。
- リボン杢
- 熱帯材の交錯木理の柾目面。マホガニーが有名。内装材。
おすすめ部材組み合わせ表
銘木をいかに組み合わせるかによって、建築空間の美しさが決まります。
その組み合わせ方は無数にあり、また自由ですが、ここでは一例としてえ、樹種、材質、形状、格式を考慮した上で、主な組み合わせを紹介します。
例えば床柱に杉丸太を選び床板に欅を選んだ場合、床框は欅を選ぶのが一般的で、おのずと落し掛は欅か杉になります。
そして落し掛に杉を選んだ場合、天井は杉にするのがふさわしいとされます。